こんにちは!大阪市福島区の犬の幼稚園、oluolu dog schoolの工藤です。
今回も、Instagramで題材を募集したときに、「犬の社会化について(人・犬・音などへの対応)」といただいたので、こちらについて解説していきます!
社会化トレーニングは非常に奥が深いのですが、犬が人間社会で暮らす上でのストレスを大きく軽減するトレーニングで、本校でも毎月社会化のしつけ教室を開催するくらいかなり力を入れています。
ちょっとマニアックな内容も含めて対応方法とポイントをお伝えします。
かなり長い内容なので、結論だけ見たい人は
までスキップしてご覧ください!
社会化とは?
犬が人間社会でストレスを感じる刺激に対して、緩和を目的としたトレーニングのことを指します。
また、ストレスからくる問題行動の予防の観点で行うトレーニングや、問題行動そのものを緩和・改善するトレーニングのことも社会化の一つにされることがあります。
ここでいう刺激とは、
・音
・知らない人
・環境
・もの
・他の犬
・触られる
といったものすべてを指します。
これらを、以降はすべて「刺激」と表記しますのでご留意ください。
社会化は仔犬のときに行うものと思われがちですが、成犬でも必要なトレーニングです。
・年齢や月齢における社会化トレーニングの役割
・社会化トレーニングがなぜ必要なのか
などはまた別の記事でご紹介しようと思いますので、upまでお待ちください✨
犬が刺激に対して不安やストレスを感じるのはなぜか?
皆さんご存知の通り、犬の祖先はオオカミです。
オオカミからイエイヌに進化する過程で、オオカミとイエイヌは別の動物と言えますが、イエイヌがオオカミから引き継いだ能力の中に「危機回避能力」があります。
人間社会は人間が住みやすいようにできているので、当然犬にとってもいいかと言われたらそうではありません。
人間にとっては「救急車。病気やけがなど人が乗って運ばれている。自分に害はない」とわかっていても、犬からしたら「すごく大きな音が近づいてくる」という現象なのです。
それに、知らない人や犬など、未知のものに対して不安を感じるのは生き物として自然なことです。
また、特別危険だと思うような経験をしていなくても、自然界に存在しないもの(車など)や、自然界で脅威とされているものと類似している(雷など)に苦手意識が芽生え
知らない人・犬・環境・お手入れなどに対しても同じで、「安全かどうかわからない、不安だ、怖い」という気持ちから、吠える・逃げる・噛む・暴れるといった行動に繋がるのです。
犬の社会化不足における問題行動では、この吠える・噛む・逃げるといった「行動」に着目されがちですが、oluoluではそもそも犬が感じているストレスそのものを緩和する方法をとっています。
社会化トレーニング①:馴化
馴化(じゅんか)とは、繰り返し継続してその刺激にふれることで、その刺激に慣れることを指します。主に仔犬の時期に用いる社会化トレーニングです。
人間でいうと、都会で生まれ育った人は虫がすごく苦手!という人も多いと思います。
でも、当たり前に虫が家の中に出るような田舎で育ったら、虫が出ても「別に」ってなりますよね。
ワンちゃんの例でいうと、
・マンションが消防署のすぐ近くにあって、物心つく前から毎日毎日頻繁に救急車の音を聞いていたら救急車の音に何の反応も示さない
・テーマパークのそばに住んでいて、毎日花火の音が鳴るので花火の音に何の反応も示さない
・小さなころから看板犬としてお店で暮らしているので、来客があっても何も気にしない
・トリマーさんの愛犬として、小さなころからしょっちゅうカットされているので、カット中はずっと無の境地
などは馴化がうまくいったケースです。
適した環境が用意できない場合は、音源などを用いて意図的に馴化してあげるのがおすすめです。
強い不安や拒絶の気持ちがあると、刺激に遭遇するたびに不安が増すため線引きが難しいところでもあります。
また、馴化が成立する前提として不安や身の安全を脅かされるような経験がないことが前提です。
たとえトリマーさんの愛犬でも、ケア中に爪の血管を切られてものすごく痛い思いをしたら、嫌いになってしまいます。
社会化トレーニング②:古典的条件付けと拮抗条件付け
古典的条件付けとは、「中性刺激(なんの感情も持たない刺激)」の後に「無条件刺激(特別な学習がなくても単体で感情を持っている刺激)」を繰り返し呈示することで、この二つが結びつくことを指します。
A中性刺激 | B無条件刺激 | 結果 |
ベルの音 | ご飯がもらえた(嬉しい) | ベル=うれしい気持ち |
ピンポンの音 | 知らない人がきた(不安) | ピンポンの音=不安な気持ち |
この学習を重ねて、中性刺激に無条件刺激の情動が結びつくと、中性刺激は「条件刺激(条件付けによってなんらかの感情を伴った刺激)」となります。
拮抗条件付けとは、「嫌悪刺激(嫌、不安と感じる刺激)」の後に快情動を持つ刺激(無条件刺激または条件刺激)を繰り返すことで、嫌悪刺激がもつ不快情動を緩和することを指します。
A嫌悪刺激 | B無条件刺激・条件刺激 | 過程 | 結果 |
知らない人 | 知らない人からオヤツがもらえた(嬉しい) | 知らない人=おやつをくれるいい人 | 知らない人=いい人・なんともない人 |
救急車の音 | 鳴っている間にずっとオヤツがもらえた(嬉しい) | 救急車=おやつがもらえる音 | 救急車=うれしい音・なんともない音 |
犬 | 犬を見かけたらオヤツがもらえた(嬉しい) | 犬を見かける=おやつがもらえる | 犬を見かける=いいこと、なんともない |
古典的条件付けも拮抗条件付けも、必ず【Aの後にB】の順番で行われることが大切です。
この順番が逆になったり、【A⇒B】【A⇒B】の間隔が近すぎると条件付けが成立しません。
これが社会化トレーニングの本質と基本です。
慣らす刺激にまだ何の感情もない場合(仔犬)は古典的条件付けになりますし、既に苦手意識がある場合は拮抗条件付けになります。
拮抗条件付けの嫌悪刺激となる対象はさまざまですが、のちに呈示する無条件刺激または条件刺激は必ず嫌悪刺激に対する嫌悪感(不快情動)よりも強いインパクトのある刺激でなければなりません。
たとえば、救急車の音がものすごく苦手なワンちゃんに、いつも食べているドライフードで拮抗条件付けしたとします。
救急車の音の不安な気持ちがドライフードよりもまさってしまうと、なんの条件付けも成立しないのです。
改善できることもあれば、緩和でとどまることもあるし、克服できないものもある
犬も生き物なので、「嫌いなこと⇒いいこと」だけで嫌いなことが好きになるとは限りません。
たとえば、うるさいところやガヤガヤしたところが苦手な人がいたとします。毎回友達がカラオケにつれていって、毎回毎回手放しで褒めてくれたら、カラオケが好きになるわけではなくても苦手意識が緩和するかもしれませんよね。
それから、たとえば私は高所が非常に苦手です。「100万円あげるからバンジージャンプして」って言われても、本当にどうしても無理なわけです。
犬にもそういうことがある、ということを覚えておきましょう。
仔犬の時期は古典的条件付けで社会化できる刺激もある
たとえばピンポンの音は、お家で暮らす中で「ピンポン=知らない人がくる」という条件付けがされるので、まだ警戒心が上がっていない月齢の仔犬はピンポンの音に対してなんの反応も示さないことがほとんどです。
そのうちに「ピンポン=いいことがある」というのを結び付けておくと、ピンポンへの吠えを予防できることがあります。
しかし、警戒心が上がってきたときに「知らない人」への不安がのちに強くなり、最初に条件付けした「いいこと」よりも不安な気持ちが勝ってしまうと、結局ピンポンに対しての不安な気持ちが条件付けされてしまうこともあります。
社会化トレーニング③:系統的脱感作法
これは人間の心療法でも用いられている手法で、「けいとうてきだっかんさほう」と読みます。
簡単に言うと、受け入れられる範囲から徐々に慣らしていく手法のことで、拮抗条件付けなどと用います。
この受け入れられる範囲からというのが社会化トレーニングの難しいポイントでもあり、単にその刺激そのものに慣らすだけでも良い場合と、苦手意識のある刺激に関連していることを分解して慣らす必要があります。
1さほど不安が強くない
2よほど快情動の強い無条件刺激を用意できる
3嫌悪刺激に対して、パニックや興奮、攻撃性などがない(またはその行動結果による学習がない)
この3つのパターンはシンプルに拮抗条件付けだけで改善することがあります。
しかし、そうでない場合はむやみに慣らしてもまったく緩和されないので、系統的脱感作法を用いて受け入れる範囲を増やしていきます。
例をいくつかあげていきましょう。
例①救急車の音がものすごく苦手なワンちゃんがいたとします。
実際にお散歩中に遭遇すると、パニックになってまったくなんの条件付けにもならない、それどろこじゃない。という場合は、まずはスマホなどで音を流して小さな音から慣らしていきます。
また、そもそも車どおりの多い道が苦手な場合は、「車どおりが多い」という環境そのものにも慣らす必要があります。
例②知らない犬が苦手なワンちゃんがいたとします。
ドッグランに放つとおびえて逃げ回ってしまい、それどころじゃない。
という場合は、まずはお散歩中平常心を保てる距離で「犬を見たらいいことがあった」というところから慣らしていきます。
例③爪切りが苦手なワンちゃんがいたとします。
爪を切る時は大暴れ、ご褒美を上げようと思っても食べられない。という場合は、まずは手で足を触るところから慣らしていきます。
系統的脱感作法を用いたお手入れ・触られに特化したトレーニングを「ハズバンダリートレーニング」とも言われています。
系統的脱感作法は、段階の見極めが肝心
なぜ私たちのようなドッグトレーナーや、行動治療を行う獣医さん、ハズバンダリーを専門で行うトリマーさんがいるのかというと、この系統的脱感作は不安や拒絶が強ければ強いほどステップの段階を見極めるのが難しいからです。
また、成犬から社会化トレーニングを始める場合、苦手意識のある刺激と関連したべつの事象に対しても緩和していく必要があり、分解してステップアップを考えるうえで知識や経験がないと、そもそも思いつかないということもあります。
ステップアップが急すぎたり、根本の原因を見つけきれなかったり、慣らし方が犬に合っていないと、かえって苦手意識を倍増してしまいます。
犬たちが発する「苦手だ、気にしている」という小さなサインは勉強しないとなかなか見つけることができず、ワンちゃんが出している小さなサインに気づかず進めてしまうとうまくいきません。
社会化に関する問題行動は一度トレーナーや行動治療を行う獣医さんに相談しよう!
今回はあくまで「社会化(刺激に対する対応)」にのみ特化してお話させていただきましたので、社会化に関連する行動については触れておりません。
行動については別の条件付けのお話になってしまうので、またどこかでブログにかけたらなと思います😅
すでに社会化に関する問題行動が出ている場合は、トレーナーや行動治療を行う獣医さんに相談しましょう。
たとえば、「犬に対して激しく吠える」という行動に困っている場合、単純に犬への慣らし(拮抗条件付け)を行っていれば治るわけではありません。
生活習慣や生活環境、飼い主との関係性やワンちゃん自身の興奮度合いなど、生活の様々な要因と複雑に絡み合っていることがほとんどです。
条件付けはあくまで「学習」なので、学習できる頭の力が出せないと成立しないのです。
また、犬への吠えに限らず、刺激に対してすでに攻撃性のある行動を起こしている場合は、噛んだり怒ったりした時点で犬自身の中で強烈な感情が発生するので、せっかく練習しても生活のどこかで怒らせてしまうことで、練習の成果がリセットされてしまうことも少なくありません。
まとめ
いかがでしたか?
かなりマニアックな内容が大半となっていますのでめちゃくちゃ簡単にまとめるとこうです。
刺激に慣らす方法
①不安が強くない場合は刺激に継続的に触れさせる(馴化)
②刺激⇒いいこと(おやつ)で刺激への不安を緩和させる
じゃあもっと簡単に紹介してよ!と思うかもしれませんが、この原理がわかっていると様々なことに応用しやすいです。
ちょっとマニアックすぎて、題材を投稿してくださった方のご期待に沿えているか不安ですが…(笑)
oluoluでは毎月第2日曜日に、社会化のためのクラスを開催しております。
ぜひ、お近くにお住まいの方は遊びに来てくださいね。
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